関東・東北地方を中心に、子守唄のような歌、木や風や花や…どこかほっとする情景の浮かぶ歌を届ける活動をしている、チグリ・ハーブさん。歌いながら生きてきた人生、50歳を超えてのチャレンジを語ってもらいました。

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短大を卒業してOL、でも歌はずっと歌っていました。
ライブハウスで歌ったり、プロのミュージシャンのコーラスをやったり、作品を提供したり。オーディションは2回落ちたけれど、スタジオで歌手のバックコーラスをやっているときに、事務所の方に声を掛けられて、プロデビューすることになったんです。

ただ、芸能界は苦しかったです。当時は夜通しでレコーディングも当たり前、私も合わせようとして、「2日間、寝てなくてもきちんと声出るんですよ!」なんて言ったりして。でもそんな生活を続けていると、当然のように体を壊して入院。自分の内側に芯がないと歌が出てこないことに、ようやく気付きました。その闘病を機に芸能界からは離れ、そして、結婚と出産。
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しばらく歌うことからも離れていたんですが、子どもを抱っこしている時、自然と出てくる鼻歌のように、この子に伝えられるような温かい音楽はないかなって。リズムも機械的な「チクチクチク」じゃなくて、手拍子や寝かしつけるような「とん、とん」。そんなリズムで歌いたい、楽曲が作りたいと思うようになりました。

そこで作曲家の長沢ヒロさんに連絡を取り、「私、そういう音楽がやりたいです」って。当時は切実だったので、初対面で「私歌わないと死んでいるみたいで、どうしたらいいですか?すごく苦しいんです」って、訴えかけました。非常にやばい人ですよね(笑)。
曲を作ってもらい、何年後かに、「初めて会った時、どうして私を受け入れてくれたんですか?」って聞いたら、「やばいと思った」って言われました、やっぱり!
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ある日、福島県西会津の限界集落で農業をしている方のブログを読んでいるうちに、なんだか行きたくなっちゃってアクセスしてみたんです。すると、「田んぼの前のガレージでライブやりませんか?」って返信が。
それがきっかけで西会津に行くようになり、廃校になった校舎をリノベーションして西会津国際芸術村を立ち上げた、NPOの皆さんにも出会えました。その人たちに「どうしてここに来たんですか?」って聞かれて、「来たくて来ました。歌手です」と1曲アカペラで歌って。結局それがご縁となって、その後の10年間、西会津国際芸術村のイベントに呼んでもらうことにもなりました。

“歌う場”に出合えるのは勘なのかな。会いたい人がいたらすぐメールを送ってみる、いいなと思った人には「好きです」って言う。それが基本です。
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歌作りのアトリエのような場所はないんです。まず曲を作ってもらって、1曲ずつ頭の中に入れて聞きこむ。そうすると、友人との食事会の帰りとか、ふとした瞬間に詩が浮かんでくる。突然すぎて、目の前のティッシュの箱に書き綴ったりもします(笑)。
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なぜか東北に惹かれるんです、時間の流れ方とか。
チグリ・ハーブという名前も、岩手県の童話作家、宮沢賢治の造語で、理想郷を意味する“イーハトーブ”をイメージして付けました。英語は使わず、原風景とシンクロするような誰もが懐かしく思う言葉で、昔話に近いような、そんな歌を歌いたくて。

本名の自分よりも、チグリ・ハーブは野性的で、舞台の上でならのびのびやれる。非常にオープンハート。媒体として、ライブに誰かが持ってきてくれた気持ちを、一度きちんと受けとってリリースする体勢でいるんです。それが私の職業モード。「触媒」であることをすごく意識しています。

よく歌で癒すとか、歌で励ますって言うけれど、私はそうではなくて。人は何かを感じればきっと自然に自ずと、どうするべきか見えてくる。流れを変えればいいだけ。私は歌で、その流れを少し変えたいだけ。
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芸能事務所に所属していた際は、固定給プラス歩合制。当時は作詞家としても活動していたので、作詞の印税もありました。
今は事務所に所属せず、10年前からフリーランスで活動しています。フリーでの主な収入源は、イベントへの出演料とCD物販です。

2007年にNHK教育『味楽る!ミミカ』という食育アニメで、エンディング曲「ララ・うらら」を歌唱させてもらっていたこともあって、オープンなものだけでなく、人の紹介を通して、特別支援学校や幼稚園、保育園などのクローズドイベントでも多く歌ってきました。
また自主ライブは多い年で、大小合わせて12回くらい。ただこちらは衣装代や会場経費など掛かるので、チケットの売上げは、あまり手元には残らないんです。

CDは基本手売り、またはクチコミの直販で。今は事務所に属していないので、大きな流通網に依存せず、シンプルに作って、ダイレクトに買ってもらう。数は絞られるかもしれないけれど、お客さんの顔がちゃんと見える。そういうやり方でやっています。

最近はオンラインの進化で、個人事業主がSNSなどで、ダイレクトにお客さんとつながって、お金の流れが作りやすくなってきましたよね。例えばクラウドファンディングを使うと、最初に資金の目処が立つし、事前の告知や宣伝にもなるので、制作に集中できて、とても助かります
福島県の石川町で撮影した『願いごと』MV(2017)

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今3枚目のCDを、新しいチームで作り始めているところなんです。
クラウドファンディングにも初めて挑戦。すごくドキドキしているけど、すごく楽しみです。支えてもらう、信じてもらう。最初にやる気をしっかり伝えて、みなさんに信じてもらう。その気恥ずかしさに最初は腰が引けて、「何を対価に?」って思っていました。でも、今は、これまで続けてきたこと、そしてこれからチャレンジする様子をまず見てもらおうって思っています
クラウドファンディング用告知ムービー『ダイジョウブ』(2019)
50歳を過ぎると自分自身もどこかで「まあ、もうわざわざ冒険しなくてもいいや」っていう停滞した気持ちになることもあって。「いや、もうちょっとやってみようよ!いろんな人にも頼ったりしてみようよ!」と、ここで風穴を開けたいんです。自分をわきまえ過ぎず、支援してもらう価値として、自信があることは堂々と届ける。気持ちを切り替えて。そして私自身の表現である歌を、ちゃんと届けたい。それが身近で、明確な目標です。

あとは様々な理由で、音楽を聴きたくても聴きに行けないような人のところに、音楽を届けに行きたい。歌だから届く隙間がきっと、あるはずだから。
もっと生歌や生演奏が身近で、活用される社会になったらいいなと思っています。
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チグリ・ハーブ

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1966年埼玉県生まれ・在住。歌手。10代からダンスホールなどで歌い、20代でメジャーデビュー。名前の由来は「イーハトーブ」のような言葉の響きがいいと考えて、ひらめいたもの。2007年1stミニアルバム『おまじない』、2010年2ndミニアルバム『願いごと』発売。2019年7月〜8月末まで、3rdミニアルバム『ダイジョウブ』の制作の向けたクラウドファンディングを行なっている。2019年11月発売予定。
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テキスト:竹本紗梨  フォト:雨森希紀(Maran.Don)
デザイン:前田佳保里 編集:丸山央里絵