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飲食店やホテルのインテリアデザイナーとして注目を集める増田太史さん。空間デザインという仕事で独立を目指したきっかけや、仕事で大切にしていることを語ってくれました。
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今の仕事を目指したきっかけは、地元の大阪芸大時代に読んだ雑誌のインタビューです。日本を代表するインテリアデザイナー 倉俣史朗の一言に衝撃を受けたんです。「自分に任せてくれた限りは、一切口を出さないでください」。すっげ〜なと。

インテリアデザインという概念が日本に入ってきた黎明期は、こんな強気なことを言えるデザイナーがいたし、それがデザイナーの姿でした。喧嘩してでもデザインという概念を世の中に伝える。その人の仕事や考え方に興味を持ち、より一層深くデザインを勉強しようと思いました。
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学生時代は何度目かのインテリアデザインバブルで、「デザインでレストランが流行る」と言われていました。そんな時代感もあり、人の行動に対してデザインの影響が大きい飲食店に興味を持ち、飲食バイトで現場経験を積みつつ、新卒で大手内装施工会社に就職。当時は25歳で独立を考えていました。

ただその会社ではアパレルやコスメショップなどの施工管理の仕事が多く、肩書きはデザイナーなのに1個もデザインができない。悶々とする日々でした。そして悩みながら10年働いて、辞めようと思いました。インテリアデザイナーを。
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ただ辞めるならいっそ好きな人のところで働いてから辞めようと思って、学生時代に一番デザインが好きだったデザイナーの会社の求人に応募したんです。で、それがハマった。入社時から「3年で独立するように」と言われたので、3年でどこまで盗めるかと考えながら働いていましたね。前職のおかげで「お前、段取りだけはいいな」ってずっと言われながら(笑)。今もそれは生きています。
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師匠のデザイナーは高級料亭など和のデザインが得意で。シンプルでそぎ落とした本質的なものをつくる人。そういう世界観が好きで自分もやりたいけれど、同じものを作っていたら絶対越えられない。それで師匠が受注した設計仕事を自分でも一案デザインしてみるというのを3年間ずっとやっていました。実際の業務とは別で。そして35歳の時、独立。想像より10年遅い独り立ちでした。
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独立して本当に良かったと思うのは、お客さんが「大きな会社の担当者」や「有名デザイナーの部下」ではなく、僕の顔を見てくれること。独立するとこんなに違うんだって思いましたね。お互いの顔を見てやっていくので、スムーズにいくし、仲良くなれるんです。

今は一人で会社をやっているので、営業はしてないし、できていない。でも多店舗展開しているオーナーさんがまた次の店を依頼してくれたり、デザインした物件を見た人から話が来たり、どんどん仕事がつながっていっています。
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独立してすぐに渋谷に事務所を借りました。前職のお客さんに前の会社が受けられない仕事で声を掛けてもらったときは、師匠にあたるデザイナーに「自分にこの仕事が来たんですけどいいですか。駄目ならやりません」と筋を通しています。独立後も濃密な付き合いが続いていて、度量のあるすごい人だと尊敬していますし、当然まだまだ超えるどころではない(笑)。
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僕たちの仕事は基本的にパソコンがあればできるので、独立資金はそんなにかからないんです。回転資金がいるので、もちろんゼロでは無理ですが。常に10件程度の物件を手掛けていてもタイミングによっては入金がゼロの月もあったりします。そういう時に限ってめちゃ忙しいので「マジか!」って。そんな時はサラリーマンって恵まれてたんだな〜と痛感しますね。

デザイン料は、僕の会社の場合は一坪何万円という感じで、分かりやすく坪あたりで計算しています。
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お金はそんなに貯まんないですよね。結婚して子供が生まれた今でも、お金は限度内で惜しまず使っています。この仕事をしていると、旅行でいいホテルに泊まるのもいいお店に行くのも、遊びなのか仕事なのか分からないんですよ。いいな、かっこいいなと思う店には行きたいし、それは贅沢ではない。経験が結果、自分の血となり肉となると思ってます。
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今の時代、フランス様式の建物を見たければ飛行機ですぐにフランスに行ける。本物が見られる。色々な国を旅した結果、自分はアジア人であり日本人で、バックボーンは和だということをとても意識しています。でも一方、今、伝統的な神社仏閣や和風の建物を作ろうと思うと、工法も材料も当時と違うのでどうしても偽物っぽくなってしまう。
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それであれば和でも洋でもない、オリエンタルなものを作りたいって最近ずっと思ってます。それが多分、僕が今やる意味なのかな、と。現代の技法に和の素材と異国の素材を組み合わせて、不思議な空間を作りたいんです。

アジアの不思議な空気感に惹かれるんですよね。トルコのタイルから光が漏れる感じとか。「陰翳礼讃」という言葉がすごく好きで、インテリアに組み込むことをずっと考えています。
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デザインする時は「渋谷で串揚げを食べるならどんな店がいいか?」とか、「この街でワインを売るならどんな店だと目立ちつつ、街に馴染むか?」とか、街の空気から入ることが多いですね。その街の匂いを感じつつ、ちょっと違和感があるお店。違和感が大きいと街の人に受け入れられないし、結果流行らない。とけ込み過ぎると存在感がなく、目立たない。そのバランスが重要なんです。
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今後の目標は、まず海外の物件を増やしたい。今はジャカルタだけですが、ニーズやコスト構造が違うし、使える素材が面白いんです。あと国内では遠野のブルワリーを手掛けたように地方の物件をもっとやっていきたいですね。
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誰かとコラボすることにも最近ハマっています。画家など異業種のアーティストとか。自分でも予測のつかないものが作れて見え方が変わる。その相手をいつも探しています。

特に同世代の若手で世の中を変えたいと思っている人とやると面白い!世代が違うと感覚やビジョンも違う。それもいいけれど、同じ時代に同じ方向を見て、何かを変えたいと思っている人と組むのは面白いです。
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あとはまだデザイナーが関与していないものや発展途上のものに、デザインを持ち込むこともこれからやっていきたいことの一つです。気持ちが上がる病院や学校、意外とデザインが入っていない駅など、デザインのパワーでそこに滞在する時間や居心地が変わりますよね。

世界中で仕事をする、人とちょっと違うことをする、デザインの領域を広げる。それが今の目標です。
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増田 太史

FUTOSHI MASUDA
1981年愛知県生まれの大阪育ち・東京在住。マスタード株式会社代表/インテリアデザイナー。内装施工会社、デザイン会社勤務を経て、35歳の時に独立し起業。デザインの力でその空間に滞在する時間、空気感を変えたいと、ホテル・飲食店など商業空間のインテリアデザインを国内外問わず精力的に手掛けている。
現在、社員として働いてくれるデザイナーを募集中。詳しくは「Recruit」から。
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テキスト:竹本紗梨  フォト:雨森希紀(Maran.Don)
デザイン:前田佳保里 編集:丸山央里絵