結婚が決まったとき、まず着たいドレスブランドを目指して

42歳で独立し、埼玉県越谷市の古民家複合施設「はかり屋」で植物屋『green bucker』を営む木原和人さん。多肉植物の寄せ植えに始まり、今や緑ある街づくりにまで活躍の場を広げるに至ったストーリーと将来の夢について伺いました。

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もともとはずっとサラリーマンをしていたのですが、40歳を超えて人生あと半分しかないってなった時に「あと半分はわがままに生きよう」って思ったんです。会社に所属して我慢して仕事をするのではなく、自分らしく仕事をしたり、自分の思うように人とつながったり、そんな人生を歩みたいなって。

それで42歳のとき、家族に反対されながらも何とか説得して独立。前職の経験を生かしてアクセサリーの企画営業の会社を立ち上げました。でも、アクセサリーの需要はどんどん減ってきているので全然鳴かず飛ばず。「どうしようかな。やっぱりサラリーマンに戻ろうかな」って妻にはぼやいていました。
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転機が訪れたのは独立4年目。昔から植物が大好きで家族にストップを掛けられるくらい家の中がグリーンだらけだったんですけど、ある日、いつも行っている園芸屋のオーナーに「サボテンの寄せ植えのワークショップをやってくれないか?」って依頼されたんです。
それが評判良くて、二子玉川や吉祥寺、調布のショップなどいろいろなところから寄せ植えやテラリウムのワークショップの依頼が入るようになりました。
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ポコポコポコって、1か月くらいでカードがひっくり返るように状況が変わったんです。そのとき直感的に「これ、死ぬまでやれたらいいな」って思って、『green bucker(グリーンバッカー)』というブランドを立ち上げました。
それから大手百貨店からも声が掛かるようになり、庭を作ったり、店舗のグリーンスタイリングをしたりという方向に仕事の幅が広がっていきました。
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『green bucker』では植物1つを売るのではなく、空間を一緒に作っていくことを大切にしています。たとえば、ガーデントレーナーの仕事。個人宅の庭づくりを、単にすべてを請け負うのではなく、依頼主と一緒に庭づくりをする。1か月に1回、1年で12回。
ガーデニングって植物が育っていく経年変化を楽しむことだと思うので、同じ時間軸の中で、四季折々のお世話の仕方や楽しみ方を一緒にやって覚えていく。そうすることでお客さんももっと庭に愛着が持てると思うんです。
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ワークショップでは五感に訴えるワークを意識しています。視覚や、嗅覚、触覚はもちろんのこと、聴覚はスピーカーから流れる音楽、最後に味覚。単体でワークショップをすることはほとんどせず、一緒にランチをするなど、できるだけ食とセットにした体験になるようにしています。

ブランドのミッションは“植物を通して充足的な生活を届ける”こと。充足的というのは、過不足がないということです。充実ではなく、充足。僕自身が前職で働きすぎて心も体も疲れ果てた時に、グリーンに触れることで癒しを体感した時期があって。過不足なく豊かな生活が送れたらいい。それを、体験を通してお客さんに伝えられたらと思っています。
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店舗を持つつもりはありませんでした。当時、自宅には資材のストックが大量に山積みされていて、そろそろ倉庫を借りなくちゃいけないかなーとは思っていたんです。でも、たまたま「はかり屋」の大家さんから声が掛かって。見学に来たらすごくいい空間があったんです。その時は草がぼうぼう生えている状態だったけど、妄想したら「植物にとっては最高の環境だな!」って思えて。ご縁ですよね。店舗を持つイメージはなかったけど、持っちゃった(笑)。
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「はかり屋」にはレストランなど全部で6つの店舗が入っていて、みんなでここを盛り上げていこうというと頑張っているのですが、たった6店舗だけで盛り上がってもたくさんの人には来てもらえない。はかり屋のある旧日光街道自体が賑やかにならないとダメだって、ある日気が付いたんです。

それで、どうやったらこの通りをおしゃれにできるかなって考えたり、通りを元気にするために地元の人とイベントをしたりするようになりました。通りから街づくりに意識が行くようになって、隣町で公民連携のグリーンを使った街づくりプロジェクトを立ち上げることにもなりました。
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“街という森を育てつつ、自分という木も育てる”というバランスは意識しています。街づくりのために自分のお店を閉めてしまったら本末転倒。でも森は豊かな木を育てる原動力にもなる。ちょっと苦しいけど、意識して両軸を回すようにしています。
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サラリーマンだった頃は「好きなことよりも稼がなきゃ」っていう気持ちが強くて、“仕事=お金”と思っていた部分があったんですけど、グリーンの仕事や街づくりを通して“仕事=人”なんだってことに気が付きました。
感性が合わない人とは進んで一緒に仕事をしようとしなくなったし、逆にすごく感性が合う人とは「何かやろう」って、目的ではなく根っこの部分で有機的につながって新しいビジネスが生まれたらいいなと。
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そして、そんな風に生まれる新しいコミュニティに身を置いてから、だんだん“所有”という意識が薄くなっているのを感じます。例えば、知り合いに山を持っている人が3人いるから、自分は山を買わなくていいかなとか(笑)。生きていくうえで必要なお金は稼がなきゃいけないけど、そんなに沢山なくてもいい。
今も収入でいうとまだまだ厳しいですが、お金を所有することよりも、お金が循環する次世代のビジネスモデルを作るコミュニティに入っていることの方が大事な気がしています。
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実はずっと77歳で死ぬと思っていました。でもこの仕事を始めてから人生が面白くて、このままだと75歳くらいでピークを迎えて、その後もまだまだ楽しめそうだなって今は思っています。

そんな人生のエンディングは“旅する植物屋”として迎えられたらいいな。トレーラーハウスに植物と、ワークショップの材料とお酒を積んで、全国の知り合いに会いに行く。1か月くらい滞在してイベントをやったり、街づくりのお手伝いをやったりできたらいいですね。
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僕は小さな瓶の中にテラリウムという、自然が循環する世界を作っているけれど、それと同じように、街という容れ物の中もグリーンでいっぱいにしてテラリウム化していけたらすごく素敵だと思うんです。現代人はせわしない毎日を送っているけれど、緑あふれる中でゆっくり充足した生活を子供からおじいちゃんおばあちゃんまでみんなが過ごせる。そういう街ならみんな住みたいって思うのかなって。

で、しばらくしたら次世代に受け渡したい。最後は弟子が運転する車の助手席に乗ってお酒を飲みながら、気の向くままに「Go!」ってやれたらいいな(笑)。
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木原和人

KAZUTO KIHARA
1974年福岡県生まれ・埼玉県在住。プランツクリエイター。2015年、“本質のある癒し”をテーマにしたプランツブランド『green bucker(グリーン バッカー)』立ち上げ。埼玉県越谷市の古民家複合施設「はかり屋」を拠点に、植物の卸やテラリウムの制作・販売、ワークショップの開催や空間プロデュースなど幅広い活動を行っている。
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テキスト:小田真穂  フォト:雨森希紀(Maran.Don)
デザイン:前田佳保里 編集:丸山央里絵