人を幸せにするロボット『LOVOT(ラボット)』、トヨタのコンセプトカー『Camatte(カマッテ)』など国内外の様々なプロジェクトで作品を生み出す根津孝太さん。工業デザイナーの枠を超えたクリエイティブコミュニケーターの仕事について伺いました。

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小さい頃からずっと、車を作りたいって思ってました。物心つく前からタイヤの付いているものは何でも好きで。あとは映像も好きで、高校では映画やCGを作ったり。
どうやって生きていくか以上に何を作りたいかを優先してずーっと生きてきたので、高校2年で大学を選ぶ段になって、「どうすんだ?」って焦りました(笑)。慌てて色々調べてみて、工業デザイナーが一番腑に落ちたんです。「ああ!これだー!」って。

それで必死に受験勉強して大学で工業デザインを学び、トヨタに就職。
最初にデザイン部で乗用車のデザインをやり、その後はコンセプトプランナーという立場でSONYと協業した『pod(ポッド)』や「愛・地球博」の『i-unit(アイユニット)』など、コンセプトカーを多く手掛けました。その中で5年先、10年先のモビリティの未来を真剣に考えて、今思えばすごく自由にやらせてもらっていたと思います。
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会社は楽しかったし、車以外がやりたかったわけでもなかったんですが、結局は自分の世の中に対するアウトプットの量ですね。辞めたほうが自由にいろんな人と関わって、いろんなアウトプットを出せるっていう根拠のない想いが湧いて。
自動車のプロジェクトにちょうど区切りのついたタイミングで、「辞めるなら今だな」って。それが2005年、35歳の時です。
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『LOVOT』は開発当初から代表の林さんの中に思いがしっかりあった。それが「抱っこできること」と「オーナーさんのところに駆け寄れること」でした。両立するのはなかなか難しいことだと思ったし、だからこそやりがいがあると思って、初めてお会いしたその場でアイデアもお話しして、意気投合。それからずっと関わっています。

最初は数人でワイワイと試作機を作るところから始めて、80億円の資金を調達するなどして大きくなった今も開発はいい意味でベンチャーらしさを失っていません。毎日が学園祭前夜みたいな雰囲気で、僕も行くときはだいたい終電帰り(笑)。
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形を決めるのは僕の絶対的な領域で、「これだ!」っていうものを出すという責任は一番感じているので、AもBもCもあるかもって言われたら「じゃあ全部やってみよう」って、採用されない案に対しても全力でやっています。時には「絶対ないな」っていうのもあるんですけど、それも含めやってみるからこそ「ないですね」って自信を持って言える。

僕は基本的に傭兵なので、結果を出さないとどうしようもない。僕は僕の信じるものを出すけど、結果がチームのみんなをガッカリさせるようだったら「もう死にたい」っていう気持ちになります。絶対に裏切りたくないと思っていて、そういう意味ではいつも緊張しています。もちろん、いい緊張ですけどね。
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企業から依頼されるプロダクト作りも、コンセプチュアルなところから入らせてもらうことが多いです。ワガママを言うつもりはないのですが、僕の力を100%出しきるにはそのフェーズから入る方が良いと思うことが多いので。

例えばTHERMOS(サーモス)社の水筒の仕事では、最初から製品のイメージがある程度決まっていたんです。でもどうしてももう少し根本的なところから提案したくて、「直接設計の方とお話ししたい」とお願いして、わざわざ新潟から呼んでもらって。そしたら会話の中でどんどんアイデアが広がって、それまでとは全く違う、爪の長い女性でも簡単に開けられるロック機構が生まれたんです。結果、その部分がTHERMOS社の新しい商品アイコンにもなり、年間何百万本も売れるほどヒットして、僕の代表作の一つにもなりました。
最初の段階でその関係性が築けていると、どんどんスパイラルアップして良くしていける。だから、どうやってそのチームの関係性を作るかっていうところが鍵なんですよね。
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その意味で、今名乗っている「クリエイティブコミュニケーター」と「デザイナー」は僕の中ではほぼ同義です。僕がひとりで意地を通してできるモノの到達点が100としたら、コミュニケーションを積み上げることで生まれるモノの到達点は150や200にもなる。
どれだけ予定調和を超えられるか。そこを超えたときに、世に出して「はっ!」って思ってもらえるモノになるんだと思っています。
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プロジェクトに参加するときは、投資的なスタンスも嫌いじゃなくて「当面のイニシャルは小さくていいので、売上に対するロイヤリティやストックオプションでやりましょう」と話すことが多いです。
まず “同じ船に乗りたい”っていう思いがある。同じ船に乗って「成功するって信じてるから、成功したらみんなで山分けしよう」っていう。それが健全で分かりやすいし、会社というものの本来の在り方だと思っています。会計士さんはハラハラしてますけど(笑)。
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逆に自分がプロジェクトを立ち上げる時も、本当に心苦しいですが、お金は当面払えないですって場合もあります。例えば『zecOO(ゼクー)』っていう電動バイクのチーム。「面白いからやるよ!儲けたら山分けね」って言ってくれる方には、巻き込んだ責任はすごく感じます。
それに対して僕ができることはプロジェクトを成功に導くのがまず第一、あとはせめて楽しく気持ちよくプロジェクトに関わってもらえるような場にしたいと思ってます。
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将来は、まず一回挑戦して答えの出せなかった超小型モビリティ。これは絶対やらなければいけないって思ってます。
いろんな人に会ったり、いろんなところに出かけたり、人間にとって“移動する”ってことはすごくエッセンシャルなこと。今、高齢者の自動車事故が社会問題化していますが、週末にスーパーに行って買い物をするとか、そういう小さなことが心の支えになっていることも沢山あるんです。じゃあ、免許を返納した人はどうなるのっていうところの答えは今のところない。

普通の自動車が危なくても、例えばこれなら乗れるっていう小さな乗り物の選択肢がもっとあっていいんじゃないかなって思うんです。高速道路はだめだけど、主に生活道路を使って近くならゆっくり楽しく行けるよっていう乗り物。決して高齢者のためだけではなくて、そんな超小型モビリティを社会のために考えていきたいですね。
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あとはタミヤ模型の田宮会長と約束した、子供たちにとって乗り物への興味やモノづくりの入り口になるような、模型や工作などのホビーの分野もやっていきたい。ホビーの世界とリアルな世界をつなぎたいんです。

他にも世の中にはまだ僕が気付いてない、まだ見つかっていない価値がいっぱいある。そういうプロジェクトが誰か素敵な人と共に現れた時にはワクワクするし、前向きにやりたいという想いはいつも持っています。
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根津孝太

KOTA NEZU
1969年東京生まれ。千葉大学工学部工業意匠学科卒業。トヨタ自動車に入社し、愛・地球博『i-unit』コンセプト開発リーダーなどを務めた後、独立。2005年(有)znug design(ツナグデザイン)設立。「町工場から世界へ」を掲げた電動バイク『zecOO』などのプロジェクトを推進する一方、GROOVE X『LOVOT』、トヨタ自動車コンセプトカー『Camatte』『Setsuna(セツナ)』、ダイハツ工業『COPEN(コペン)』、THEMOS ケータイマグ『JMY』『JNL』『JNR』などの開発も手がける。国内外で多くのデザイン賞を受賞。2014~2019年度 グッドデザイン賞審査委員。著書『アイデアは敵の中にある』(中央公論新社)、『カーデザインは未来を描く』(PLANETS)。
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テキスト:小田真穂  フォト:雨森希紀(Maran.Don)
デザイン:前田佳保里 編集:丸山央里絵