フィンランド政府観光局で働き、2014年にフィンランド移住。翻訳やライターなどの仕事をしてきた彼女が、巡礼の旅をきっかけに「料理」を仕事に選んだ理由。そしてパートナーと共に料理を通して伝えていきたいことを語ってくれました。

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パリへの留学後、東京で就職。父の親友がフィンランド人で幼少期から何度も訪れていたことや、偶然フィンランド人の友人ができたことをきっかけに興味を持ち、フィンランド政府観光局に転職しました。
その後、日本の暮らしに心がギスギスしてしまって、2014年には仕事も決まらないまま移住を決意。フィンランドで観光系の仕事を受けつつ、フリーの翻訳・ライターとして生計を立て始めました。
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時間に余裕が出来たのでホームパーティを頻繁に行い、元々好きだった料理を多くの友人に振る舞うように。
料理って研究し始めると奥深いんです。様々なテクニックがあるし、文化の数だけ、家庭の数だけ多様性がある。また作るだけじゃなくて素材の見極めや組み合わせ、お皿選び、盛り付け、片付けまでが大事。私は頭で段取りを考えて2時間で10種類ほどを作るのと、片付けがすごく好きでした。
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そんな日々を過ごすうちフィンランドのビザ規制が厳しくなり、独身のままフリーで働くのに必要な最低限の収入を下回ってしまい、帰国しなくてはならないことに。
そこでずっと行きたかった“サンティアゴ巡礼”へ出発しました。スペインを横断する36日間の巡礼の旅。今後の人生を考えるために歩いたのですが、見つけたのは「フィンランドを離れたくない」という思いでした。
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また巡礼中の宿では、自分たちで料理を作る機会もあって、旅仲間に振る舞ったところ味を褒められて。料理の仕事をしてみたいと本気で思うようになりました。そしてフィンランドに戻ってすぐレストランの仕事に応募したら、「明日から来て」って(笑)。

若い人が多く体力的にもハードで、勇気は要りました。でも巡礼を経て「本当に好きなことをやる」と心に決めていたので、きついのもどんと来い。フレンチ、お寿司屋さん、スペイン料理…様々なキッチンで働きました。
「一生料理人で生きていきたい」と思ったのは、33歳のときです。
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キッチンに入ってからは知り合う人たちがガラッと変わりました。アフリカで水道を掘っていて実は工学系の博士号も持っているオーストラリア人や、獣医を目指して何年も試験を受けているフィンランド人など経歴が違う、多角的なアイデアを持つ人たち。友人ではなく職場の仲間。半強制的に付き合う人が増えるのが、社会というか。本当に現地で働くことだなって。
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私は日本にいた頃「変わった人がいてね」と紹介されたり、普通にしているだけで「面白い〜!」と言われたりして傷つくことが多かったのですが、フィンランドは個性や違いを尊重する、またはスルーするスキルを身に着けている人が多いのでとても居心地が良いです。
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また夫は国民の5%しかいないスウェーデン系フィンランド人で、夫のお姉さんは一昨年に国が同性婚を認めた直後に、村で最初に同性同士で結婚式を挙げた人。そんなマイノリティの立場にいる人たちの中から発信できることもあると思っています。『あなたが思っているイメージの外側に現実は広がっているんだよ』って。
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収入としては料理がメインです。2018年に結婚した同じ料理人のベンヤミンと一緒に、世界各国でポップアップレストランを開いたり、知り合いのレストランの開店に合わせてスキルや知恵を提供したり。狭い業界なのでその評判が広がってまた声が掛かる感じですね。

あとフィンランドって失業保険が辞めた次の日から出るんです。おかげで短いスパンで働いて、辞めて旅行に行き、また違う職に就くという自由な働き方ができています。
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今は夫婦で2つのプロジェクトを手掛けています。

1つは、北欧の伝統的な食の研究プロジェクト。
自分たちで育てて収穫したジャガイモを、森で狩ってきたキノコを乾燥させた粉に塩を混ぜて作った「キノコ塩」と共に食べるとか、自生している野草や花をジャムにして食べるとか、松の木の若い芽を摘んでシロップにしてお酒にするとか。
フィンランドで今、古いレシピ集を発掘して、昔ながらのやり方を取り入れるのが流行っていて、私たちも素材の活かし方、美しい保存の仕方、ハーブの効能などを勉強しています。
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もう1つは、フィンランドと日本の魅力を食でつなぐプロジェクト。

実はフィンランドは最近まで、かつてはあった地産地消の考えを失ってしまっていました。80〜90年代にグローバル規模での消費主義が食文化にも浸食したことや、外食においてフランスから伝わった文化を踏襲し続けていたことが原因です。
ローカルの魅力が再び発見され評価されている今は、日本の四季を大切にする意識や、旬のものを積極的に採る食文化を伝えるのに良い機会なんです。
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この冬は日本酒を用意して1日だけの“居酒屋レストラン”を開催。フィンランド人が考える日本の料理って、寿司やラーメン、知っていてもお好み焼きが限界なことも多くて。地方に伝わる美しい伝統食も紹介しようと、秋田のいぶりがっこ、宮崎の柚子胡椒、沖縄のジーマーミ豆腐などを使った料理を提供しました。

好評だったのは、「いぶりがっことクリームチーズ」。伝統食材にクリームチーズを合わせてしまう日本の柔軟な食文化を紹介したかったのですが、乳製品が好きなフィンランド人の舌に合うのではという予想も見事に当たりました。
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人って根本的に探究心が旺盛で、知らないことを知りたいもの。料理を通して新しい世界に興味を持ってもらえたら、というのが私たちのテーマでもあります。
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将来はフィンランド郊外にオーベルジュを開くのが目標です。より自然に近い暮らしをしながら、B&Bのように色んな旅人を受け入れて、ファーム体験で野菜を育てて収穫したり、卵を一緒に採ってオムレツを作ったり。
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他にもみんなで学びながら、人生が楽しくなる場を提供していきたいですね。SNSを通して文章を発信したことで、そこから希望や新しいアイデアを見つけて、私の考えに共感してくれて、一緒に何かやりたいと言ってくれる人たちがいる。
その仲間と今後、“すこやかに生きる”をコンセプトに、フィンランドやフェミニズムをテーマにしたzineを創刊する予定なのですが、ずっと続けたいことのひとつです。
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日本の社会では「もっとがんばらなくちゃいけない」「あなたは何かが欠けている」というメッセージが常に発信されているように感じて、若い頃はずっと「私はダメなんだ」と思って生きていました。
みんな一生懸命やっているんだから、そのままでいることに価値を与える社会であって欲しい。そういう社会だったら私はどれだけ楽しく生きられただろうって今は思います。

だからこそ私は人と会った時、それを提示できる人になりたい。ありのままにチャレンジングに生きること、地球に優しく暮らしていくこと。みんながそうだったら、世界はもっと楽しくなるって思うから。
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吉田実

MINORI YOSHIDA
1983年宮崎県生まれ・ヘルシンキ在住。2014年、フィンランドの首都ヘルシンキへ移住。巡礼の旅を経て料理人に。現在はシェフとして働きながら、パートナーのベンヤミンの料理に関わるプロジェクトを進めている。2020年には居酒屋の立ち上げ、またフェミニズムやフィンランド、映画などをテーマにしたzineを創刊予定。
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テキスト:竹本紗梨  フォト:雨森希紀(Maran.Don)
デザイン:前田佳保里 編集:丸山央里絵
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