食べ物や花、虫などを本の上で組み合わせた独特の作風が、国内に限らず海外でも高い評価を得ている写真家・うつゆみこさん。日々の制作活動や作品を通して伝えたいメッセージについて語ってもらった。

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小さい頃から工作とか編み物とか、手を動かして物を作るのが好きでした。高校時代は“写ルンです”とか使い捨てカメラがちょうど流行りで、私は好きだったお風呂に浮かべるゴムのアヒルをいろんなところに置いて撮影していましたね。

ちょうどその頃“ガーリーフォト”ブームがあって、写真家の長島有里枝さんがグランプリを獲った『アーバナート#2』とか、自分の意志で美術館に行き始めて、「ああ、こんな世界もあるんだな」って思って憧れて。それが写真の道に進みたいと思った最初です。
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本格的なカメラを手にしたのは高校3年生のとき。おじいちゃんにキャノンのA-1というマニュアルカメラをもらいました。今みたいに難しい機能もないからシャッタースピードと絞りと感度の3つが分かって、あとはピントが合えば撮れるのでおもしろくて。

その頃に撮影したものですごく印象に残っているのが、生き物好きな父が捕ってきてしばらく飼って死んでしまったキリギリスに、赤いドライフラワーと割れた鏡とを畳の上でコラージュして撮ったもの。それが初めての作品といえるものです。
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大学は日芸写真学科を受けましたが、同時に記念受験の早稲田大学にも受かってしまってそちらへ。専攻分けで私は美術史専修に行きたかったのですが、成績が悪くて中国文学専修というマニアックなところに。そのまま4年まで通ったものの、卒業できる見込みもなかったので、「本格的に写真の勉強をしよう」と思って大学を辞めました。
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『次の年からは写真のカルチャースクールに週3回、1年間通い、卒業後はその系列のスタジオに就職して、スタジオアシスタントになりました。本格的な技術が身に付く一方、とにかく拘束時間が長くて、休みの日も疲れて寝るだけ。なかなか自分の作品が撮れなかったので2年弱で辞めて、25歳の時に時間的な拘束が少ないフリーのアシスタントになりました。6人でアシスタントのグループを組んで、自分の作品撮りの都合に合わせて交代で現場に行っていましたね。
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その翌年に『ひとつぼ展』でグランプリを獲りました。審査には父に本棚を作ってもらって、100冊の自作の写真集を並べたんです。またその翌年には個展を開催。この時は壁を額で埋め尽くしたくて、全部で1000枚の作品を飾りました。

それからギャラリーに誘っていただいたり、カルチャースクールから声がかかって講師を始めたり、海外の展示に連れて行ってもらったりと忙しくなっていき、30歳過ぎで結婚・妊娠があったこともあり、アシスタントに行くことはだんだん減っていきました。
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私の作品をグロテスクに感じる方もいるみたいなのですが、私自身グロテスクなものはそんなに好きではなくて。肉や内臓も使っているけど、全てお肉屋さんで買ってきている食材。なので、よく見るとグロテスクじゃないんです。
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「作品を作るときはまずは市場やスーパーに行って、その場でときめいた素材を持ち帰ります。どうやったらおもしろく見えるかな?ってウンウン唸りながらアトリエにあるたくさんの小物と組み合わせて考えて、それらに合いそうな背景を写真集や画集から探します。だから私の作品は「生き物・食べ物ファースト」。

誰かが私のことをイタコだって言ってくれたんですけど、自然のいろいろなものが神様で、私はそれに動かされているという感覚はあります。
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私が感動するのは生き物の綺麗さとか、面白さ。それらを共有する会話のツールとして写真を使えたらなって思っています。現代人は忙しくて自然のこととか一切見る暇ないじゃないですか。そんな人たちに私の作品を見てもらって、小さい時のことを思い出したり、ゾクゾクする感じ、生きている感じ、生き物とつながっている感じを味わったりしてほしいな、自然に立ち返る時間を持ってほしいなって。
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ひとつの作品を作るのに平均3~4時間。以前は1週間くらい作品に集中する濃密な時間があったのですが、今は子育てがあるのでその時間はもう帰ってきません。子供ができる前は魚に花びらを1枚1枚貼っていくような時間のかかる作品もありましたが、幼稚園のお迎えなど時間のリミットが見えていると精神的にできないんです。

作品制作に潜れば潜るほど変なのが出てくるんですけど、今は潜りが浅いので出し切れてないっていうのがあって、そこがジレンマかな。
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作品を作るときはずっとスピッツの曲を聴いていますね。歌詞の、すごく変なところから拾ってくる言葉の使い方とか、組み合わせの突飛さとか、聴いていると世界が広がっていくようで頭が自由になる。いつかスピッツのジャケット写真を撮りたいとずっと思っています(笑)。
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写真展では展示料のようなものは発生せず、もし作品が売れてもギャラリーへのマージンが半分くらいあるので、むしろお金は出ていくほうが多いこともあります。先日のパリでの展示では現地に直接行ったのですが、娘の分の旅費までは出ないので結局赤字。

そんなわけで、写真が売れないと写真家は全く儲かりません。写真展に呼ばれても作品が売れないときは、時にコンテンツとして求められている矛盾を感じることもあります。
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多くの写真家はフォトグラファーとして広告の仕事をして、そのお金で作品を作って展示をしています。私は写真の講師の仕事。フリーランスだから子供を保育園に入れられず幼稚園に入れているのですが、講師だったら拘束時間も短いし、前々から予定が立てられるので助かっています。
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私は虫などの生き物が大好き。生き物の中に答えとか人生の教訓があるなって思うんです。例えばカエルを飼うと、11月から2月まで冬眠して土の中からずっと出てこない。それを見て「人間はどんな季節も忙しく動いているけど、そんな頑張らなくてもいいんじゃないかな」と思ったり、イモリが脱皮した自分の殻を食べているのを見て「エコだな、理にかなってるな」って思ったり。
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今の子供たちはどんどん自然に触れる機会が少なくなっているけど、生き物離れを食い止めておかないと将来的に生き物のことを考えてくれる大人がいなくなってしまう。日常的にすぐ近くにいるよ、面白いよっていうことを伝えたいです。娘が以前通っていた幼稚園にはリクガメとカピバラがいて、私大好きなので、そこで写真集を作ってみたいですね。
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写真をやめることは想像できません。これから先も写真を媒介に自然のものと人間とをつないで、人間のことばかり考える社会ではなくなるといいなと思っています。
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うつゆみこ

YUMIKO UTSU
1978年東京都生まれ・在住。写真の学校 東京写真学園修了。2006年に二大“写真家登竜門”の一つと言われる第26回『ひとつぼ展』(現・1_WALL)にてグランプリを受賞。海外からも評価が高く、フランスやハンガリー、チェコ、イタリア、中国など様々な国で展示活動を行っている。これまでに『はこぶねのそと』『うつつのゆめ』の2冊の写真集を刊行。
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テキスト:小田真穂  フォト:雨森希紀(Maran.Don)
デザイン:前田佳保里 編集:丸山央里絵